1.立地
シャトー・デュ・ボワの畑は、南仏のヴォクリュース県ラガルド=ダプトというとても小さな行政区にあります。
住民はわずか35人、人口密度1キロ平方メートルあたり1.6人という、たいへん豊かな自然に囲まれたのどかな場所です。
2.高度
広大な畑は、高度1100メートルの山の上に広がっています。
公共の交通機関はありません。訪れるには、アヴィニョンやマルセイユなどの街から車をチャーターして2時間弱のドライブが必要です。
なぜこんな不便な場所にあるのでしょう?それは、良質のトゥルーラベンダーを栽培するには高度がとても大切な要素だからなのです。
3.気候
地中海とアルプス両方の特色が混ざり合ったユニークな気候。
これこそがトゥルーラべンダー栽培に理想的な環境です。
意外なようですが、ラベンダーは過酷な環境に適応した植物です。南仏というと年中あたたかいイメージですが、実は冬は寒くて雪の時期が長く続きます。
いっぽう夏の暑さは厳しく、空気はたいへん乾燥します。この厳しい気候の中で、「骸骨土」と呼ばれるほど乾燥して痩せた土地にトゥルーラベンダーは力強く根を張り、夏にはたくさんの花を咲かせます。
4.多様性
ありのままの自然が残っているこの地域では、豊かな生態系を目にすることができます。
ラベンダー畑を守るように囲っている森には、カシ・ナラ・ブナ・ポプラ・白樺などたくさんの落葉樹が茂みを作っており、またラベンダーが生息する石灰質の土壌にはエニシダやヘザー、栗の木なども見られます。
ミツバチ・バッタ・蝶・テントウムシなどの虫たちも仲良く共生しています。
まさにピュアそのものの土地、地上の楽園のようなところです。
5.テロワール
「高度・気候・土壌・共生する植物。これらすべてがそれぞれの作物にユニークな個性を与える。」
これは、フランスで「テロワール」と呼ばれている考え方で、たとえばワインを語る時などにもよく引用されます。
シャトー・デュ・ボワのトゥルーラベンダー精油の香りが繊細でありながら力強さを併せもつのも、年によって香りの個性がちょっと違うのも、このテロワールによるものなのです。
リュベロンの雄大な山々に見渡す限り囲まれた自然豊かな風景は、訪れた人々を感動させ、時に人生が変わったとさえ感じさせてくれるほどです。
ぜひ、シャトー・デュ・ボワのトゥルーラベンダー畑を訪れてみてください。
12 months in the fine lavender field
- 南仏プロヴァンス・トゥルーラベンダー畑の12カ月 -
シャトー・デュ・ボワの畑では、どのような1年を過ごしているのでしょうか。
この章では、年間を通してのトゥルーラベンダー畑での作業をご紹介していきます。
種まき
夏の終わりに、まだ花盛りの野生(※畑で栽培しているものではなく、周辺に自生している株)のラベンダーの種を集めます。
集めた種を畑にまくのは、11月になって初霜がおりるころ。新しい世代のトゥルーラベンダーを育てる準備のため、1~2年のあいだ緑肥で覆ってしっかりと準備を整えた畑にまかれます。
1ヘクタール(10,000㎡)につき、6kg以上の種が必要です。
少なく聞こえるかもしれませんが、トゥルーラベンダーの種はとても小さいので、1kgあたり100万粒もの種の数になります。つまり1ヘクタールの青い素敵な絨毯を得るためには、600万粒の種をまく必要があるということです。
たいへん広大な土地の中、どこに栽培するかは大切なチョイスです。
先祖代々受け継いだ経験から、もっとも日当たりがよく最適な斜面が栽培場所として選ばれます。場所を効率よく利用することは、夏の嵐の被害を避けることにも繋がります。
春先、トゥルーラベンダーは芽吹き、ぐんぐんと成長をはじめます。
土と植物を尊重すること
肥料の使用は最低限にとどめます。
たくさん肥料を与えれば生産量は増えるかもしれませんが、わたしたちは自然のままの植物を尊重することを大切にしているからです。
本来、ほんとうに優れたものは適度にしか産出されません。
農家にとって、土はとても大切です。
ラベンダーの栽培が1サイクル終わった土地にはライ麦を1~3年ほど栽培して、土を休ませます。こうすることで、大地の活力を維持するのです。
最適なタイミングでの収穫
初夏に花を咲かせるトゥルーラベンダー。
わたしたちの1年で最も忙しい季節がやってきます。
満開の花を収穫する日には、乾燥していて風のない、非常に暑いときが選ばれます。
最高品質のトゥルーラベンダー精油を得るためには収穫の時期がとても大切ですが、わたしたちはこれまでの豊富な経験と専門知識によってその年の収穫のベストタイミングを決めています。トゥルーラベンダーを理解していなければできないことです。
トゥルーラベンダーはクローンと異なり個体によって種が違うため、成熟のタイミングがずれます。これが最も難しい点です。
また、花の先端部分と花穂を持つ茎を正確にカットしなければならないため、刈り入れには豊富な経験と高度な技術が必要です。
もし高く切りすぎると花の一部分が損失して結果的に1年しか収穫できませんし、逆に低く切りすぎると枯れてしまう可能性があり、翌年の収穫にとって打撃になってしまいます。
花がしおれるギリギリ手前で蒸留する
エッセンシャルオイルの品質を高く保つ伝統的な方法は、必ず「しおれる直前の」花を蒸留することです。
そのため、ラベンダーを刈ったあとはそのまま24~48時間以上畑に放置して乾燥させます。
こうすることでラベンダーは60%の水分を失って、精油の産出量は減ってしまいますがかわりに品質がよくなるのです。
さあ、ここまできたら、いよいよ蒸留です。
蒸留へのこだわり
トゥルーラベンダー精油には、300種類以上の天然の科学分子が含まれます。そのうちもっとも軽いのが芳香分子で、軽いものから水蒸気に最初に溶け出してきます。
精油を蒸留するときに最も重い成分まで余すところなく取り出そうと思ったら、より長くじっくり蒸留する必要があります。これは「クマリン」という成分で、トゥルーラベンダー精油に傷跡を治すという特徴をもたらします。
生産効率を上げてコストを下げるため、高圧かつ短時間で蒸留を行う生産者も中にはいますが、そのぶん品質も香りも劣ってしまいます。
それに対してランスレー家では蒸留のすべての段階に細心の注意を払い、水蒸気の温度と圧力をつねに人の目でチェックしています。
まるで高級ワイン?精油も熟成させる
特級ワインと同じように、高品質なトゥルーラベンダー精油もゆっくり熟成させる必要があります。こうすることで品質が安定化し、香りもまろやかになるのです。
シャトー・デュ・ボワでは、蒸留されたトゥルーラベンダー精油の入った樽は、販売の準備が整うまでに少なくとも5ヶ月間「カーヴ」で寝かされます。
このように、本来のトゥルーラベンダー精油は、種まきから蒸留まで細心の注意を払って手をかけて生産されています。そのため世界中で年間15,000kgほどしか生産できず、たいへん貴重なものなのです。